昔、何日も雨の降り続いた時期があった。山野に住む動物たちは、ぬれない場所を探し求めては身を潜めていたが、それでも雨水はどこからか流れ込んできて、動物たちは湿気に悩まされていた。
ところが、ある森に住む一匹の小ザルだけは、雨の全く入らないほら穴で心地良さそうに暮らしていたのであった。ある日、退屈した小ザルはほら穴の入り口に姿を現し、しとしとと降り続く雨をながめていた。ちょうどそこへ、真っ黒な顔をした大きなサルがずぶぬれになってやって来た。震えながら大ザルがふと顔を上げると、ほら穴の入り口に小ザルが座っているではないか。
「ちくしょう、おれがこんなにみじめな思いをしているというのに、あいつの幸せそうな顔はなんだ。」
大ザルはしゃくにさわって仕方がなかった。
「よし、ひとつあいつをだまして外へ誘い出し、おれがここへ住んでやろう。」
大ザルは思いきり息を吸い込んで腹の皮を膨らませ、いかにもおなかがいっぱいだというような顔をして小ザルの前に立ち、うたいかけたのである。
今にも熟れて 落ちそうな
たわわに実る 果物を
たらふく食べて 満足だ
おいしかったぞ うまかった
ほら穴ばかりに こもっていては
おなかがすいて つらかろう
君も出てきて 食べたらどうだ
ほら穴の奥深くには、乾燥した果物や木の実がまだ残っていた。しかし大ザルの満足そうな顔を見ると、小ザルは新鮮な野生の果物がむやみに食べたくなった。
「雨が降っているのはここら辺りだけかもしれない。少し先に行けば晴れていて、大ザルの言うように様々な果物がいっぱいなっているのかもしれない。」
そう思うと、小ザルはいてもたってもいられなくなった。のどをゴクリと鳴らしてほら穴を飛び出し、森の中から広い野原へと走った。
ひどいどしゃ降りだった。もちろん新鮮な果物などは、どこにも見当たらなかった。びしょぬれになって森の中のほら穴に帰ってみると、なんと大ザルが自分の座っていた場所にあぐらをかいているではないか。
「なんとずうずうしいやつだ。だまされた。」
小ザルは腹を立てた。しかし、対等にけんかして追い出そうとしても、とても勝てる相手ではない。そこで、だまされたのだから今度はこちらがだましてやろうと考え、大ザルの前に立ってうたいかけた。
目上の方と知り合えて
わたしはたいへん幸せだ
あなたのおかげで腹いっぱい
木の実を食べて幸せだ
しかし大ザルは、どこにも うまい食べ物などないことを十分知っていた。初めに自分がうそをついたように、小ザルもうそをついていることをすぐに見抜いたのである。大ザルはうたい返した。
おんなじ森の住人同士
だまそうとしてもむだなこと
子ザルでさえもだまされまい
ましてわたしがなぜだまされる
ほら穴の中にどっかりと居座る大ザルを見て、どうしても追い出せないと知った小ザルは、降り続く雨の中を当てもなくとぼとぼと立ち去っていった。
(ジャータカニ九八)