良い日悪い日

1.

ある時、都で暮らしている一家が遠方の田舎の娘を嫁に迎えることにした。両家で何回か細かな相談をした結果、結婚式の日どりもめでたくまとまった。当日になって、都の一家の主人は占い師のもとへ出かけていった。彼は日ごろから、なにかにつけてその占い師を頼っていたのであった。

「先生、実はわたしの家に嫁を迎えることになりまして、今日結婚式をあげようと思っているのです。今日は祝い事にふさわしい日かどうか、念のためちょっと占ってみていただけませんか」

占い師はこの言葉を聞いて腹を立てた。

「今日結婚式をすると決めておきながら、今になってそれが良いか悪いか占ってくれというのは、いったいどういうことなんだ。人をないがしろにするにも程がある。全く無神経なやつだ。これはひとつ邪魔をしてやらねば……。」

占い師はそんな心の内を顔には出さず、落ち着き払った声で言った。

「なに、今日が結婚式ですか。それはおめでたいことですね。では、大切な日ですから特別丁寧に占ってさしあげましょう」

そう言いながら目をつぶって祈るような顔をした後、いくぶん眉をひそめて待ち構えている男に告げた。

「困ったことになりましたよ。今日の星の動きは祝い事に適さないと出ていますね。今日はおやめなさい。明日にしたほうがいいですよ」

彼は実際には占いもせずに、もっともらしい答えを出したのである。男は占い師の言葉を聞くと、もうすっかり田舎の人との約束を果たす気をなくしてしまった。

「そうですか。明日が良い日なのですか。やっぱり先生に占っていただいてよかったですよ。これはまあ一生の問題ですから、やっぱり良い日を選ぶに越したことはありませんよね。どうもありがとうございました」

男はひとりうなずきながら帰っていった。

2.

さて、田舎の娘の家では朝早くから結婚式の支度に大わらわであった。人を集めて部屋を清め、念入りに掃除したり様々なごちそうを用意したり都へ持っていく荷物をまとめたり、手分けして皆忙しく立ち働いていた。娘も化粧をして美しく着飾り、ようやく昼近くになっていつ都の人がやって来てもよいように準備が整ったのであった。

時間はどんどんたっていった。田舎の家では首を長くして都の人たちを待っていたが、とうとう夕方近くなってしまった。太陽はもう西の空に沈みかけ、温かい料理もすっかり冷めてしまった。娘は気が気ではなかった。そのうえ慣れない晴れ着を着て座っていたので、すっかり疲れてしまい、だんだん心細くなってついには泣きだす始末だった。

「いったいこれはどういうことなんだろう。あんなに何度も相談して今日という日を決めておきながら、不都合なことでも起きたのならちょっと知らせてくれればよいものを。町の人間とは、なんてちゃらんぽらんなんだ」

田舎の人はすっかり都の一家のだらしなさにあきれ、かねてから娘を嫁にしたいと望んでいた同じ村の男に、その日のうちに嫁入りさせてしまった。

その翌日、占い師の言葉を信じきった都の男は今日こそは星の巡りの良い日だと、朝早く一家そろっていそいそと村の家へやって来た。門を入るなりにこにこと上機嫌で言ったのである。

「やあやあ、今日は結婚式には最良の日だそうですよ」

昨日のことなど少しも詫びる様子もなく話しだしたので、村の家の者たちは皆あきれて都の人たちを見やった。

「すっかり準備をして待っていたのに昨日来なかったので、娘はもうほかの男のところへ嫁にやってしまったよ」

取りつく島もない娘の父の答えに、都の男はびっくりして言った。

「そりゃあひどい。あなたはわたしの家にくれると約束したじゃないか。田舎者はこれだから嫌になる」

それを聞くと、今度は村の男が怒りを爆発させた。

「よくもそんなことが言えたもんだ。ひどいのはあんたたち都の人じゃないか。あれだけ念入りに相談して決めた日取りを、勝手になんの連絡もなく変えてしまうなんて。あきれてものも言えないよ」

「いいや、実は昨日は結婚式をするには良くない星巡りだったのだよ。うっかり占ってもらうのが遅くなって、出がけにそれが分かったのだ。ほかのこととは違う大事なことなので、星巡りの良い今日にしたんですよ」

「それはおかしい。一日中待ちぼうけさせておいて、そんな勝手な理屈が通ると思うのですか。なにしろ娘はもういませんよ。昨日は結婚するのにたいへん良い日だったらしく、あれはとても嬉しそうにお嫁にいきましたよ」

「なんですか、一日くらい遅れたからといって。ちゃんと前もって約束した嫁入り先がありながら勝手によそにやってしまうなんて、いい加減なのはどっちなんだ」

こうして激しい言い争いが始まり、しまいには取っ組み合いの大げんかになってしまった。

この様子を通りがかりの人が見ていた。彼は都で名高い博士であった。博士は、大声で争っている人たちに負けないほどの大きな声で呼びかけた。

「お互いに乱暴はやめなさい。あんまり大きな声で言い合っているので、通りがかりに事の次第は聞いてしまった。どうも星占いが原因のようだね。昨日は星の巡りが悪いとか言っていたが、いったいその星とかいうものでどんな良いことがあるというのかね。星の動きなんかより、お嫁さんを迎えるという事実のほうがよっぽどめでたくて良いことだと思うがね。その良いことを行う日が最良の日に決まっているんじゃないかな。また、今日はとても良い日だそうだが、こんなつまらぬ大げんかをする日が本当に良い日なんだろうか。わたしから見れば最悪の日だと思うがね」

こう言って、博士はおかしそうに笑いながら歌を唱えた。

星の動きで 良し悪しが

決まることなど ありゃしない

事の良し悪し 幸不幸

人の心で 決まること

星は空から 見るばかり

都の一家は自分たちの身勝手な行いから占い師を怒らせ、またそのために嫁をもらい損ね、あげくの果てに大げんかを引き起こして顔や手足にあざや傷を作り、すごすごと引きあげていったのである。

(ジャータカ四九)

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