仏教説話大系5P102
ブラフマダッの王子は、秀才の誉れが高かった。タッカシラーの都で学問を学び、十六の時には、学術、宗教にわたる十八科目の学問を完全に修得した。国王は、このことをたいそう喜んで、王子に副王の位を与えた。
このころ、バーラーナシーの人々の間に、ヤギや豚、鶏などを殺して神に供える犠牲祭が流行していた。町のあちこちにある菩提樹の木の下には、たいてい多くの人々が集まり、動物などの生けにえを供えてお祈りをしていた。菩提樹に宿る神に願って、子供や名誉や財産などを授かろうというのであった。
王子は、生き物たちが残酷に殺されて供えられる、この犠牲祭というものに疑問を持っていた。何者かを犠牲にして願い事がかなうなんて、あってはならないことだ。もしそれに神が加担しているとすれば、その神は悪神であって、決して人間に益をもたらすものではない。菩提樹に宿る神は、そのような悪神であるはずがない。犠牲祭は迷信なのだ。父の死後、わたしが王位を得たらこの悪習をやめさせよう。
それからというもの、王子はしばしば犠牲祭にやって来た。しかし、生けにえを供えるのではなく、菩提樹に香や花を供えた。そして周りを美しく清め、水を打って手厚く神を祭った。人々は、不思議そうにその様子をながめていたが、王子のすることなのでなにも言わなかった。
その後、王が亡くなり、代わって王子が王位に就いた。国王は早速家臣たちを集めて命じた。
「わたしがつつがなく国王になれたのは、父王の死のためだけではない。菩提樹に宿っておられる神に厚く供養したからだ。わたしは神に供物をささげなければならない。早速準備をしてほしい」
「かしこまりました。で、いったいなにを用意いたしましょう」
大臣が進み出て尋ねた。
「殺生などの人の道にはずれた行いをする者を殺して、その血と心臓を供えるのだ」
「分かりました。早速国民に通達いたします」
大臣は、城塞の上の大太鼓をたたいて国民を広場に集めた。そして、国王の意志をしっかりと伝えた。
神のためだと 思い込み
殺生重ねる 我が民よ
不法不善が 続くなら
民の生き血を 供えよう
我が信仰の 菩提樹に
人々は、生き物の殺生を禁じられたので、仕方なく犠牲祭を取りやめることにした。しかし、犠牲祭をやめても、なんの神のたたりも現れなかった。むしろ、以前より願いがよくかなえられるとのうわさが立った。
それ以後、バーラーナシーの都では、残酷な供物をする者は一人もいなくなった。菩提樹の神のもとには、いつもかぐわしい香と美しい花々が供えられるようになった。
ジャータカ五十