昔、ヒマラヤ山のふもとに美しい湖があった。太陽の光を受けて、その水面は緑のひすいのようにきらきらと輝いていた。この湖には、一匹の魚の王が魚の群れたちに囲まれてゆうゆうと暮らしていた。
湖には危害をもたらす生き物もおらず、魚たちはいさかいをすることもなく群れをなし伸びやかに泳ぎ回っていた。ところが、ある日一羽の青サギがこの湖水を見つけて降り立った。
「うまそうな魚がたくさんいるわい。ひとつごちそうになるとしよう」
青サギはできるだけ静かに湖水近くの木の枝に舞い降り、魚たちの様子をうかがった。
「どいつもこいつも不用心でのんきなやつばかりだ。まるで食べてくださいと言わんばかりじゃないか。もう少し時機を待って、やつらが近づいてきたときにごっそりいただくとしよう。」
こう考えた青サギは、美しい青い冠羽(かんう)をかしげ、翼を広げていかにも取り澄ました様子で水際に立っていた。
そんなこととは知らない魚たちの群れは、いつものように仲良くえさを探しながらすいすいと楽しげにやって来た。彼らは青サギの静かで落ち着き払った姿を見つけると、あれは修行者に違いないと考えた。そして青サギをたたえるうたを唱えた。
なんと尊い その姿
翼をたたみ ただひとり
深い思いに 身を沈め
修行のほどを しのばせる
魚たちが青サギの様子にひかれ、尊敬とあこがれを寄せているのを見てとった賢い魚の王は、うたを唱えて彼らを論した。
うわべの姿に 気をとられ
これを信じる 愚かさよ
あれは魚を ねらうため
動かずにいる サギ漢だ
これを聴いた魚たちは、ようやく青サギのたくらみに気づいたのであった。
一方、水際の青サギは片足で姿良く立ちながら、懸命に空腹をこらえていた。その時、青サギにあいさつでもしにくるかのように魚たちが群れをなして近づいてきたのである。
「さあ、今だ。」
青サギがもう一本の足を水に下ろそうとしたその時、魚の群れはいっせいに身をひるがえし尾びれで強く水面を打ち、すさまじい勢いで水しぶきを上げた。
そして、慌てふためく青サギを残してすいと方向を変え、いかにも気持ち良さそうに泳ぎ去っていったのである。
(ジャータカニ三六)