果実の味

1.

昔、バーラーナシーの都でプラフマダッタ王が国を治めていた時のことである。戦争もなく平和な日々が続いていたが、王の心は晴れないことが多かった。というのは、周りの者が皆へつらってばかりいて、自分がどんなに悪いことをしても見て見ぬふりをしているという、そんな国王の生活にすっかりいや気がさしていたのである。

「ああ、わしを叱ってくれるような人に会いたいものだ」

王はこう言って天を仰いでいたが、ある日思い立って旅に出た。諸国を放浪する旅人に身をやつした王は、国の端から端までただひとりで歩き回ったのであった。だが、どんなへんぴな村に行っても、出会う人々は国王をほめたたえるばかりで、悪いところを語ろうとする者はなかった。

「これでは都と同じではないか。ああ、ほめられてばかりいるのはいやだ。わたしは欠点ばかりの人間なのに……」

王は寂しくつぶやきながら歩き続けた。そうするうちに深い森に入っていった。何日も薄暗い森の中を歩き回った末に、ある庵にたどり着いた。そこで修行者がひとり静かに瞑想していた。王はなにか心に響くものを感じてその姿を見つめていたが、しばらくして修行者に声をかけた。

「修行者さま、修行者さま」

修行者はゆっくりと王の方を振り向いた。初めて会ったはずなのに、王には昔からの友達のような気がしてならなかった。修行者はほほ笑みながら、見たことのない果実を一つ王にさし出して言った。

「これは、今日のうちに採ってきたニグローダの実です。さあ、お食べなさい」

王はおなかがすいていたのですぐに一口ほおばった。すると、それはよく熟れていて甘くとろけるような味がした。

「ああおいしい、なんておいしい実だろう」

王は思わず声に出して言った。

「おいしいでしょう。わたしもあなたといっしょに食べましょう」

修行者はそう言って自分も果実をほおばり、なにげなく言葉を続けた。

「こんなに果実がおいしいのは、王さまが正しく平等に国を治めているからでしょう」

王はその言葉が気になって尋ねた。

「修行者さま、それでは王が悪い心をもち法に背いて国を治めると、ニグローダの果実は甘くならないとおっしゃるのですか」

修行者は王の顔をじっと見つめて言った。

「そのとおりですよ、旅のお方。王やその周りの者たちが法に背いて悪政を行うと、争い事が絶えなくなって国中の者が元気を失ってしまいます。そして果実などもよく育たず、甘味を失ってしまいます。しかし王が正しく国を治めると、国中に活気があふれて果実も豊かに実り、甘味を増すのです」

修行者は王を諭すように言うのであった。

「よく分かりました、行者さま。ごちそうになりました」

修行者に礼を述べて、王は自分の身分を隠したまま深い森の中からバーラーナシーの都へと帰っていった。王が城へもどると、また周りの者たちのお世辞やへつらいが始まった。だが王は、あの修行者の言葉を支えにして国を治めた。

2.

ところがある時、ふいにある疑問が王の心をかすめた。

「あの行者の言ったことは本当だろうか。これは試してみるしかない」

その日から王は人が違ったように威張り散らし、高慢に振る舞った。そしてしばらくたってから、王はまたヒマラヤの深い森に向かってひとり旅に出たのである。森ではあの修行者が静かに座って修行に励んでいた。王の姿を見ると、修行者は懐かしげに王を招き入れ、再び熟したニグローダの果実をさし出した。

「さあ、お食べなさい。疲れたでしょう」

王はどきどきしながらその実を口にした。おなかがすいているはずなのに、熟した果実はひどくまずかった。

「ああ、苦い!」

王は思わず叫んで吐き出してしまった。これを静かに見つめていた修行者は、王を諭すように言うのであった。

「旅のお方よ、そんなに果実が苦いのは、王がひどい政治を行っているからでしょう。森の果実に限らず、すべてのものがその持ち味を失っているのです」

そう言って修行者は詩を唱えた。

大河を渡る 牛の群れ

その先頭の 一頭が

斜めに進めば 群れは皆

同じく斜めに 進むもの

これと同じく 人の世も

長となるべき 人間が

悪い政治を 行えば

だれも真っすぐ 歩けない

これを聞いた王は修行者に深く頭を下げ、自分がこの国の王であることを明かした。そして、修行者の言葉を疑って試したことを心からわびた。

「修行者さま、これからはあなたの忠告を守り、熟したニグローダの果実がいつも甘くなるように努めましょう」

王は修行者に約束し、城へ帰っていった。そして今度こそ周りの者に心を動かされることなく、しっかりと国を治めた。

(ジャータカ三三四)

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