酔っ払った軽業師

ある町に軽業師の親子が住んでいた。息子は小さい時から芸に秀でており、成人に達した時には父親をしのぐほどになっていた。しかしもっといろいろな芸を身につけたいと願い、ある軽業師に弟子入りすることにした。その軽業師は、鋭くとがったやりの穂先を飛び越す芸を売りものにしていた。息子はこの軽業師から芸を学び、ともに各地を巡業して歩いていた。

軽業師の一行がある村で興行していた時のことである。人垣が軽業師たちを大きく取り巻き、芸の一つ一つに盛んな拍手を送っていた。人の背丈ほどもあるやりを一本飛び越すのさえたいへんな業である。ひとつ間違えばぐさりと串刺しになってしまう。それを一本、二本、三本、四本と飛び越えるのである。しかも最後には四本並べたやりの穂先を一気に飛び越えてみせるというのだった。人々の目が輝き、大きな拍手が湧き起こるのも当然のことである。

軽業師が見事な芸を披露すると、歓声とともに金銭が雨のように投げ入れられた。酒びんを抱えて走り寄る者、我を忘れて身につけた宝石を施そうとする者、それはそれはたいへんな人気であった。振る舞い酒にしたたか酔った軽業師は、得意満面で人々に言った。

「皆さん、こんなに喜んでいただいて本当にありがとう。そのお礼に一世一代の芸をお見せすることにしよう。今から五本のやりを飛んでお目にかける」

すると、人々からは前にも増して盛んな拍手が湧き上がった。しかし、その言葉に誰よりも驚いたのは軽業師の弟子だった。急いで師匠のところへ駆け寄って言った。

「師匠、おやめください。師匠はまだ一度も五本のやりを飛ばれたことはありません。そんなことをなさればきっと五本目のやりに命を奪われてしまいます」

しかし、軽業師は酒のためにすっかり正気を失っていた。

「いや、止めるな。お前はわしの本当の腕前を知らんのだ」

そう言って無理に準備を進めさせた。

「どうかやめてください。師匠が命を落とされるのを黙って見てはおれません」

「うるさい。お前なんかに何が分かる」

弟子がなおもやめさせようとするのを、軽業師は強引に突き離した。弟子の心配はその後すぐ事実となった。軽業師は五本目のやりに串刺しとなり、鋭い悲鳴を上げてそのまま動かなくなった。弟子は師匠のもとに走り寄り、はらはらと涙を流して言った。

「あんなにお止めしましたのに、どうしてわたしの言葉を聞き入れてくださらなかったのですか」

そして師匠の体からやりを抜き取り、遺体を火葬にして弔うのだった。
(ジャータカー六)

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