王子の決意
ブラフマダッの王子は、秀才の誉れが高かった。
タッカシラーの都で学問を学び、十六の時には、学術、宗教にわたる十八科目の学問を完全に修得した。
国王は、このことをたいそう喜んで、王子に副王の位を与えた。
このころ、バーラーナシーの人々の間に、ヤギや豚、鶏などを殺して神に供える犠牲祭が流行していた。
町のあちこちにある菩提樹の木の下には、たいてい多くの人々が集まり、動物などの生けにえを供えてお祈りをしていた。
菩提樹に宿る神に願って、子供や名誉や財産などを授かろうというのであった。
王子は、生き物たちが残酷に殺されて供えられる、この犠牲祭というものに疑問を持っていた。

何者かを犠牲にして願い事がかなうなんて、あってはならないことだ。
もしそれに神が加担しているとすれば、その神は悪神であって、決して人間に益をもたらすものではない。
菩提樹に宿る神は、そのような悪神であるはずがない。
犠牲祭は迷信なのだ。
父の死後、わたしが王位を得たらこの悪習をやめさせよう。
それからというもの、王子はしばしば犠牲祭にやって来た。
しかし、生けにえを供えるのではなく、菩提樹に香や花を供えた。
そして周りを美しく清め、水を打って手厚く神を祭った。
人々は、不思議そうにその様子をながめていたが、王子のすることなのでなにも言わなかった。


あとを継いだ王子
その後、王が亡くなり、代わって王子が王位に就いた。国王は早速家臣たちを集めて命じた。



わたしがつつがなく国王になれたのは、父王の死のためだけではない。
菩提樹に宿っておられる神に厚く供養したからだ。
わたしは神に供物をささげなければならない。
早速準備をしてほしい。



かしこまりました。で、いったいなにを用意いたしましょう。
大臣が進み出て尋ねた。



殺生などの人の道にはずれた行いをする者を殺して、その血と心臓を供えるのだ。



分かりました。早速国民に通達いたします
大臣は、城塞の上の大太鼓をたたいて国民を広場に集めた。そして、国王の意志をしっかりと伝えた。
神のためだと 思い込み
殺生重ねる 我が民よ
不法不善が 続くなら
民の生き血を 供えよう
我が信仰の 菩提樹に
人々は、生き物の殺生を禁じられたので、仕方なく犠牲祭を取りやめることにした。
しかし、犠牲祭をやめても、なんの神のたたりも現れなかった。
むしろ、以前より願いがよくかなえられるとのうわさが立った。
それ以後、バーラーナシーの都では、残酷な供物をする者は一人もいなくなった。
菩提樹の神のもとには、いつもかぐわしい香と美しい花々が供えられるようになった。
ジャータカ50
『仏教説話大系』第5巻
「犠牲祭」より