隊商と毒果実
昔、バーラーナシーの都には、商人たちが大勢住んでいた。
彼らは品物を積んだ荷車を連ね、町や村を商売して回った。
一人の金持ちの商の家に、たいそう賢い息子がいた。
彼は優れた隊商主として隊商たちから信頼されていた。
ある時、彼らがいつものように商売の旅を続けていると、大きな森の入り口についた。
隊商主は隊商たちを集めて言った。

この森には、毒の木があるかもしれない。
お前たちが今までに食べたことのない、木の葉も、花も、実も、いっさい口にしてはならない。
必ずわたしに見せて、わたしがいいと言ってから食べるように。
隊商たちは森へ入っていった。
すると、間もなく小さな村が見えた。
その村の入り口には、マンゴーの木にそっくりの木があった。
この木は、幹や枝の格好から葉っぱや果実の形まで、マンゴーと区別がつかないほどよく似ていた。
中でも果実は、形ばかりか、その香りも味も、不思議なほどマンゴーの実にそっくりだった。
しかし、大きな違いが一つあった。
それは、この実を食べた者は、猛毒のハラーハラ(注.1)を飲んだときと同じように、たちどころに死んでしまうということであった。
インド神話に登場する伝説上の猛毒のことです。
別名「カーラクータ(Kālakūṭa)」とも呼ばれます。
冷静なリーダー
さて、隊商たちは、長旅の疲れをこの木の下でいやすことにした。
気の早い、のどの渇いた隊商の一人は、思わず木に登り、果実を採ってくちびるをうるおした。
ほかの隊商たちは、豚商主の言葉を思い出して果実を手にしたまま、食べるのをためらっていた。
そこへ、一足遅れて隊商主が着き、隊商の一人が、彼にマンゴーの実を見せて聞いた。



隊長。このマンゴーの実を食べてよいでしょうか。
隊商主はそれを見て言った。



これは毒だ。食べてはいけない。
すでに日に入れてしまった隊商は青くなった。
しかし、隊商主は落ち着いて言った。



まず、口にしたものを全部吐かせなさい。
それから、砂糖と乳と蜜と油を混ぜた薬を飲ませて、静かに寝かせれば良くなる。
一行はそこで一夜を明かした。
果実を食べてしまった男も、翌朝にはすっかり良くなっていた。
村人の驚き
翌朝、この村の住人たちが、口々に牛は自分のものだとか、品物はわたしがもらうなどとわめき合いながら、毒の下に集まってきた。
彼らはいつも、この毒の下で休む隊商たちが果実を口にして死ぬと、その死体だけを他の場所へ捨てて、荷物や牛を盗んでいた。
その朝も、いつものつもりでやって来たのだ。
ところが木の下では、隊商たちが笑い合い話をしながら、朝食をとっていた。
村人たちは驚いて隊商の一人に尋ねた。



あの美しい果実を食べなかったのですか。



とんでもない。あれは毒の木です。



よくマンゴーと間違えませんでしたね。



ああ、それは隊長が知っておられたからです。
本当に危ないところだった。
隊商の一人は、思い出してもぞっとするという表情で、見事な毒樹を見上げながら答えた。
村人はすっかり感心してしまった。そして、今度はその隊商主に直接尋ねた。



賢い隊長さま。
あなたはどうして、これが毒樹とお分かりになったのですか。
すると隊商主は、ほほ笑みながら歌を唱えた。
登ろうと
思えばたやすい 背丈の木
村があり
人の行き来も 少なくない
ところがこの木に 美しく
熟れてたわわな 見事な実
採る人もなく 香を放つ
だからわたしは 知ったのだ
命を奪う 毒樹だと
隊商主は、このように注意深く隊商たちを守って、いつも無事に長い旅を終えたということである。
(ジャータカ五四)
ジャータカ54
『仏教説話大系』第5巻
「毒果実の木」より