金色のガチョウ

昔、あるバラモンの家に男の子が生まれた。やがて立派な青年に成長し、同じ村のバラモンの家から妻をめとった。二人の間には三人の娘が生まれた。
家族は仲良く幸せに暮らしていたが、ある時父は急病にかかり、何日もたたないうちに亡くなってしまった。残された妻と三人の娘は泣き叫んで悲しんだが、生活のことを思えば悲しんでばかりもいられなかった。そこで村の人の紹介でよその家に雇われて働くことになった。


一方、父は死んだ後金色のガチョウに生まれ変わった。ガチョウの羽は日ごとに美しく輝き、この世のものとは思えないほどになった。
ガチョウは美しい自分の姿をながめながら、ふと自分の前世を思いやった。そして妻と三人の娘のことを思い出し、きっと暮らしに困っているに違いないと考えた。

そうだ。わたしのこの黄金の羽を妻や娘たちにやることにしよう。
これを売ればなんとか暮らしていけるだろう。

そこで早速妻たちの家へ飛んで行った。


そこは粗末な小屋だった。ガチョウはその屋根に止まり、じっと中の様子をうかがっていた。するとしばらくして、薄汚れた着物を着た妻と娘たちが家の中から出てきた。そして屋根に止まっている金色のガチョウを見つけて声を上げた。

まあ、なんてきれいな鳥

金色のガチョウだわ

どこから飛んできたのかしら

ガチョウは優しい声で語りかけた。

わたしはお前たちの父さんだよ。今はガチョウに生まれ変わっているが、お前たちのことが心配になって様子を見にきたのだよ。これからわたしの羽を一枚ずつやることにしよう。これを売れば暮らしも楽になるだろう。そのうちまた様子を見にくるからな

そう言って一枚の羽を地面に落とし、そのまま飛び去っていった。

こうして妻と娘たちは黄金の羽を売り、暮らしも少しずつ楽になっていった。それ以後もガチョウはしばしば訪ねてきて黄金の羽を落としていった。


ところがある日、妻は娘たちにいった。

畜生の言うことなど信用してはならない。あのガチョウもそのうちきっと来なくなるだろう。
だから今度ここへ現れたなら、あの黄金の羽を全部抜き取ってしまおうじゃないか。

娘たちは反対した。

お母さん、なんてこと言うの。
そんなことをすればお父さんは痛い思いをなさるし、それに飛べなくなってしまうじゃないの。

しかし貪欲な妻は娘たちの言葉に耳をかそうともしなかった。何日かたってガチョウが飛んできた時、妻は手招きして言った。

あなた、こちらにいらしてください

金色のガチョウが手元にやって来ると、それを素早く捕まえて羽を全部抜き取ってしまった。ところが抜き取ったとたん、その羽はただの白い羽に変わったのである。

妻は丸裸にされて飛ぶこともできなくなったガチョウを鳥小屋に閉じ込め、えさを与えるたびに言った。

さあ一日も早くもとのような金色の羽を生やしなさい

ところが、生えてくる羽は皆白いものばかりだった。白い羽が生えそろったある日、ガチョウはどこへともなく飛び去り、二度ともどってはこなかった。

ジャータカ136

『仏教説話大系』第8巻 「金色のガチョウ」より
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