ウズラの知恵

ある森に、ウズラの群れが住んでいた。ウズラたちは一日中森を飛び回り、歌をうたい、楽しく暮らしていた。

森の近くに一人のウズラ捕りの男が住んでいた。男はウズラたちの寝静まる夜にそっとやってきてウズラを捕らえ、家へ持ち帰った。そして、大きな鳥小屋にウズラを入れて、えさを与えては太らせた。ウズラが丸々と太るのを待って人々に売り、男はそれで暮らしを立てていた。


この森に、知恵深い一羽のウズラが住んでいた。ある時、昼間の疲れでぐっすりと眠っているところを、たくさんの仲間といっしょにウズラ捕りの男に捕らえられてしまった。
ウズラたちは鳥小屋に入れられても、あまり悲しまなかった。小屋の中には、食べきれないほどのごちそうが山と積まれていて、森の中よりここのほうがよほど良いと言い出すウズラもいた。丸々と太ったウズラは次々とどこかへ連れられていくが、それが人々に殺され、食べられてしまうのだとは気づかなかった。ウズラたちは目を輝かせ、喜んでえさを食べ続けた。

しかし、その中で知恵のあるウズラだけはえさを食べなかった。ウズラ捕りがなぜ上等のえさを食べさせるのか、丸々と太ったウズラたちをどこへ連れていくのか、じっと考えた。

そうだ、このウズラ捕りの男の思うままになってはいけない。男がわたしたちにえさを与えるのは、わたしたちを太らせて人々に高く売りつけるためだろう。
そして、人々に買われたわたしたちは、殺されて食べられてしまうに違いない。

そう気づくと、知恵のあるウズラは一口のえさも食べないことにした。仲間のウズラたちが日に日に太っていくのに比べ、このウズラは日に日にやせていった。


やがて、仲間のウズラたちは次々に売られていった。しかし、やせ細ったウズラだけはだれも買い手がなく、ただ一羽残ってしまった。ウズラ捕りの男は、ウズラを小屋から取り出すと、手に載せて不思議そうにつぶやいた。

いったいこのウズラはどうしたんだろう

そして、体のあちこちを調べだした。男が油断してふと指を離した時、ウズラはありったけの力を出して飛び上がった。そして、そのまま森へ向けて飛び去っていった。森へ帰ると、仲間のウズラたちが次々に集まってきて、ウズラに尋ねた。

長い間見なかったが、どこへ行っていたのかね

実は、わたしはたくさんの仲間といっしょに、ウズラ捕りの男に捕まってしまったんだよ

じゃ、どうして君だけ、逃げてこれたのだい

それは、、、

と、ウズラは、今日までの一部始終を仲間たちに話して聞かせた。そしてうたを唱えた。

思慮ない人の 果てを見よ

ただいたずらに 滅び待つ

思慮ある人の 果てを見よ

死と束縛から 逃れ出て

自由の賛歌 唱えるを

ジャータカ118

『仏教説話大系』第5巻 「ウズラの知恵」より
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