昔、バーラーナシーの都でブラフマダッタ王が国を治めていたころのことである。
都の近くに、こんもりと葉の茂った大木のそびえる森があった。鳥たちは群れを作り、この森に住んでいた。静かな森の中で、鳥たちは幸せな日々を送っていた。
ある日のことだった。鳥の王が木々の上を飛んでいると、大木の枝が風に揺られてこすれ合っているのが見えた。しだいに枝からは白い煙が立ち上がり、物の焦げるにおいが王の鼻をかすめた。
この枝がこのままこすれ合っていたら、今に煙は炎となるだろう、、、
鳥の王は、そう考えて木の下に降りてみた。地面は枯れ葉で埋まっていた。
落ちた火は枯れ葉を燃やし、その勢いでこの大木を焼き倒すに違いない
鳥の王の頭には、火事の様子がまざまざと浮かんだ。
ここに住んでいるのは危ない。どこか別の場所へ移らなければ、みんな死んでしまう。
そこで鳥の王は、森の中に遊ぶ鳥たちにうたを唱えて危険を知らせた。
我らの住みつく 大木は
煙を立てて 燃えだすだろう
よそへ移ろう 鳥たちよ
危険は我らの 安らぎの
森から生まれて 我らを襲う
鳥の王の声は森中に響き渡った。森の空気がぴんと張りつめた。日ごろ鳥の王から生き方や考え方を学んでいる鳥たちは、新しい森を探すためにすぐさま鳥の王に従い、大空に飛び立った。
枝から飛び去る鳥たちのざわめきをよそに、えさをむさぼる鳥の一群がいた。その時々を勝手気ままに過ごす鳥たちだった。彼らは森の騒ぎの中で、相変わらず木の実をつついていた。
ばかばかしい。あの慌てようはなんだ。
水たまりの中に、大きなワニが住んでいるというようなものだ
そう、絶対にありえないことさ
彼らは鼻で笑って、鳥の王の言葉を信じなかった。そして、そのまま森で気ままな日々を過ごしていた。
そんなある日のことだった。夕暮れとともに、大風が吹き荒れ始めた。大風に揺られ続けた大木の枝は、ついに火の粉をまき散らし始めた。あちこちに散らばる火の粉は、葉から葉、枝から枝へと飛び散り、一瞬にして森を火の海に包み込んだ。
森中に煙と火がうず巻いた。火は森を焼き尽くし、煙は逃げ惑う鳥たちの目を焼いた。目を焼かれた鳥たちは、飛ぶこともできず次から次へと炎の中に吸い込まれていった。