山犬の王と無頼漢

昔、バーラーナシーの町外れの森の中で一匹の山犬が生まれた。彼はたくましく成長して山犬の王となり、大勢の群れを従えて墓地の後ろの森に住むようになった。

ある時、ラージャガハの都でにぎやかな祭りが催された。それは別名酒祭りといわれ、男たちは思う存分酒を飲んでは踊り狂うのであった。そこには自然にあちこちから無頼漢が集まってきた。

無頼漢たちは町の中心にある店に陣取って酒や肉を次々に運ばせ、美しく装った舞姫たちに歌をうたわせながら浴びるほど酒を飲んでいた。酒宴は夜まで続き、ついに無頼漢たちは肉を食べ尽くしてしまった。

おい、肉はないか。肉を持ってこい

無頼漢たちが酔って叫ぶと、店の主人はおずおずと答えた。

肉はもうどこにもありません

なに、肉がないだと。祭りの日だというのに、なんてざまだ。
よし、それならおれが墓地に行って、死人の肉を食いにやってくる山犬のやつらを殺し、その肉を持ってきてやろう。

無頼漢のひとりはそう言ってこん棒を持ち、勢いよく墓地へ出かけていった。


墓地についた男はこん棒を持ったまま死人のようにあおむけに倒れ、目を閉じ、息を殺して待っていた。

やがて山犬の王が群れを率いてやって来た。山犬の王は男のすぐ近くまで来て、不審に思ってつぶやいた。

おや、これはどうも死人ではなさそうだ

そして風下の方へ行き、風に乗ってくる男のにおいをかいだ。

うん、確かにこれは死人のにおいではない。この男はやはり生きている。
なにか悪巧みをしようとしているに違いない。よし、あいつをからかってやるとするか。

山犬の王は足音を立てないようにしてそっと男のところへ近寄っていった。そしてこん棒の先をくわえ、ぐいと強く引っ張った。

男は驚いてこん棒を強く握りしめ、ぱっと跳び起きた。だが、その時には山犬の王は数メートルも離れていた。山犬の王は男に呼びかけた。

男よ、もしお前が死人であれば、こん棒を引かれても強く握りしめるはずがない。
それにお前のにおいは生きている者のにおいだ。そんなことでだまされると思うか。

くそっ、見破られたか。畜生のくせに生意気なやつめ

男はこん棒を力任せに投げつけた。だが、そのこん棒ははるかに的を外れ、暗やみの向こうへ飛んでいってしまった。

山犬の王はその様子を冷ややかにながめながら、

お前はおれに棒を投げつけた。お前は死後必ず地獄に落ちるだろう。

と言ってそのままどこへともなく姿を消した。

この男は何の獲物も捕らえられないまま、ぶつぶつ文句を言いながらもと来た道を通って町の方へ帰っていった。

ジャータカ142

『仏教説話大系』第7巻 「山犬の王と無頼漢」より
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