森の神々の友情

大黒柱さがし

昔、バーラーナシーの都でブラフマダッタ王が国を治めていた時のことである。王宮の庭には様々な木々や草花が生い茂る森があり、その森のクサ草(※)には神が宿っていた。また、四方に枝を広げたルチャ樹の大木があり、この木にも大きな威力のある樹神の一家が住んでいた。クサ草の神とルチャ樹神の一家はとても親しくしていた。

ある時、宮殿の大黒柱がゆらゆらと揺れた。家来たちは慌てて王に報告した。すると、王は家来たちに命じて言った。

今すぐ大工を呼び、大黒柱にふさわしい大木を持ってこさせて補強せよ

家来たちは早速大工を呼び、あちこち手を尽くして木を探させたが、宮殿の大黒柱に使うほどの大木はどこを探しても見つからなかった。
大工たちが途方に暮れて王宮にもどってくる途中、ふと王宮の森のルチャ樹に目をとめた。大工たちはすぐさま王に伝えた。

宮殿の大黒柱にふさわしい大木がやっと見つかりました。
でも、わたしたちにはその木を切ることはできません。

どうしてか

王はいぶかしげに尋ねた。

その木は王宮の庭の森のルチャ樹なのでございます。あの森の木は王さまの許しなしには切ることができませんので、、、

うむ、そういうことであれば致し方ない。あの木を切って宮殿を丈夫にしてくれ。
あの木の跡には新しいルチャ樹を植えることにしよう。

承知いたしました

大工たちはルチャ樹のところへ行き、もう一度品定めをして木に供物をささげ、恭しく合掌して帰っていった。


草木の会議

さて、この事情を知った樹神の夫婦は子供たちを抱きかかえながらすっかり途方に暮れた。

明日になるとわたしたちの住処はなくなってしまう。
子供たちを抱え、どこへ行けばいいのだろう。

樹神の悲しみはやがて森中の草や木の神々に伝わった。

それは大変なことだ。なんとかしなければ

神々は次々に集まってきて相談し合ったが、なかなかいい考えは浮かばなかった。

その時、少し遅れてやってきたクサ草の神が前へ進み出て言った。

美しいルチャ樹が切られるなんて許してはおけません。皆さん、ご心配は要りません。
わたしが必ず大工たちを思いとどまらせてご覧に入れます。まあわたしのすることを見ていてください。

これといっていい方法が見つからなかった時だけに、神々はほっと胸をなでおろした。

どんな方法か知らないが、とにかくよろしくお願いしますよ。
賢明なあなたのことだから間違いはありますまい。安心してお任せします。

そう言って神々はそれぞれ散っていった。


カメレオン作戦

翌朝、クサ草の神はカメレオンに化身してルチャ樹のもとにやって来た。そして根から木の中へ入り込んでいかにもルチャ樹の幹が空洞のように見せかけた。それから木の中程に登って枝に止まり、辺りを見渡しながら大工たちのやって来るのを待っていた。

やがて大工たちがやって来た。大工たちは大きなのこぎりとおのを傍に置き、木の根本を調べ始めた。

おやおや

大工の棟梁が言った。

昨日は少しも気づかなかったが、これはたいへんな老木だ。
木の根元が穴だらけだ。

それじゃあ親方、木の中はきっと空洞ですよ。これでは使いものになりません。

大工たちも根元の穴をのぞき込みながら言った。

ふむ、これは困った。せっかく王様からお許しをいただいたのに。

仕方がない。もう一度国中を探してこれに代わる木を見つけよう。

大工たちは大空にそびえ立つルチャ樹をうらめしそうにながめながら立ち去っていった。


ルチャ樹の樹神は、こうしてクサ草の神のおかげで住処を失わずにすんだのだった。

ありがとう。あなたの知恵でわたしたち親子は救われました。

樹神は涙を流して礼を言った。

森の神々も次々にやって来てルチャ樹の無事を喜び合った。そして口々にルチャ樹を救ったクサ草の神をたたえた。

しばらくして神々の長老のひとりがしみじみと言った。

わしは神としての威力を十分にもちながら、いい知恵がなかったために力を振るうことができなかった。
クサ草の神は体は小さくて力も劣っているが、知恵があるためにルチャ樹神を救うことができた。
威力の優れたもの、劣ったもの、それぞれに良いところがあるのだ。

わたしたちは皆友として仲良くしなければならん。そしてお互いに助け合わなければならん。そうして初めてわたしたちはこの森で楽しく平和に暮らすことができるのだ。
そのことをクサ草の神に教えられた。

こうして森の神々は、生涯にわたって仲良く助け合いながら暮らしたということである。

ジャータカ121

『仏教説話大系』第8巻 「森の神々の友情」

※ クサ草:吉祥草(きちじょう・そう)のこと。湿地に生える茅に似た草。釈尊が悟りを得た時に、菩提樹の下にこの草を敷いて座っていたといい、またその際に吉祥童子が釈尊にささげた草であるとも伝えられている。

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