昔、林の中にネズミの一族が住んでいた。ネズミたちの王は体も大きく、知恵も深く、いつも数百匹の仲間を連れて行動していた。
ある時、この林に一匹の山犬が入り込んだ。山犬はあちこち歩き回っているうちにネズミの一族の住処を見つけた。
これはいいものを見つけた。ひとつはかりごとをしてネズミたちを食べてやろう。
山犬はそうつぶやきながらネズミたちの住処をのぞき込んだ。それから太陽に向かって一本足で立ち、風を吸い込むように大きく口を開けた。
ネズミたちがえさを探しにいこうと住処を出た時、この奇妙な格好をした山犬に気づいて足を止めた。
いったい何者だろう。ふむ、あの様子から見るときっとりっぱな修行者に違いない。
ネズミの王はそう思って山犬に声をかけた。
あなたは四本も足があるのにどうして一本足で立っているのですか。
山犬は静かに目を閉じたまま答えた。
わたしが四本の足で立つと大地は支えることができないのです。それでこうして立っているのです。
では、なぜ口を開けているのですか
わたしたち修行者は決して命あるものは口にしません。こうして風ばかりを食べているのです。
それならもう一つお尋ねします。あなたはどうして太陽に向かって立っているのですか。
太陽を礼拝しているからです。
ネズミの王はこの言葉を聞いてすっかり感心した。
どうかわたしたちにあなたのお世話をさせてください。
それからというもの、ネズミたちはこまごまと山犬の身の回りの世話をするようになった。
ところがネズミたちが山犬の世話を終えて帰る時、山犬は最後の一匹を素早く捕まえてむしゃむしゃと食べてしまった。そして口をぬぐって何事もなかったかのようにまた一本足で立っていた。
こうして何日かが過ぎると、ネズミたちの数はだんだん少なくなっていった。ネズミたちは口々に言い合った。
この住処は混み合っていて随分窮屈な思いをしたものだ。それがこのごろではえらく余裕ができ、広過ぎるほどになった。
これはいったいどうしたわけだろう。
ネズミの王はこの話を聞いて考えた。
他人を疑うのはいけないことだが、今後あの山犬の行動を注意して見守る必要がありそうだ。
次の日、山犬の世話を終えて帰る時、ネズミの王はほかのネズミたちを先に帰していちばん後から帰ることにした。すると、山犬はきばをむき出しにして襲いかかってきた。ネズミの王は素早く身をひるがえしてそれを避けた。
山犬よ、お前の修行とはこういうことなのか。修行者づらをして他人をだまし、罪のないネズミたちの命を奪うとはなんということだ。
ネズミの王はそうどなりつけるなり山犬に襲いかかり、頸動脈をかみ切ってあっという間に殺してしまった。
それからというもの、ネズミたちは以前のように楽しく平和な日々を過ごせるようになった。