昔、バーラーナシーの都の近くの森で、猟師が二羽の美しいオウムを捕まえて王に献上した。王はたいそう喜んで二羽を金の鳥かごに入れ、毎日おいしい穀物と甘い砂糖水を与えて我が子のようにかわいがった。
しばらくして、やはり森の中で猟師は大きな黒サルを捕まえた。
これは珍しいものを捕まえた
猟師は早速これも王に献上したのであった。王はこの珍しい黒ザルをひと目見るなりすっかり気に入って、夢中になってしまった。毎日様々なごちそうが惜しげもなく与えられ、王のそばに仕える侍女たちもそのサルをうらやむほとであった。黒ザルもこれに気をよくして我が物顔に振る舞うようになっていった。
一方、オウムたちはたちまち忘れ去られ、食べ物もろくにもらえなくなった。のどが渇いても砂糖水はおろかただの水さえもらえず、のどの渇きに声も出なくなる始末であった。
二羽のオウムは兄弟であったが、兄のほうはじっと我慢して不平ひとつ言わなかった。ところが気性の激しい弟はすっかり腹を立て、羽を震わせながらかすれた声で言った。
兄さん、ぼくはこんな目に遭ってはとてもじっとしていられないよ。さあ、こうなったらなんとかここを出て森に帰ろう。途中で危険な目に遭ったとしても、そのほうがまだましだよ。黒ザルなんか死んじまえ。
兄のオウムはじっと目を閉じて弟のわめくのを聞いていたが、静かに目を開くと落ち着いた声でうたを唱えた。
名誉と不名誉 損と得
称賛屈辱 苦と楽と
とどまることなく 訪れる
世間の常に 憂えるな
これを聞いても弟はまだ腹の虫が治らない様子で、荒々しく言った。
兄さんは賢いからこれから先のこともよく分かるんだろう。このままじゃ、ぼくはいやだ。どうにも気持ちが治まらない。
あの憎いサルのやつが王宮から追い払われるとでもいうんなら胸がすっとするんだが。そうはならないのかい、兄さん。
これを聞いて兄のオウムはまたうたった。
耳を震わせ 尊大に
威張りくさって 好きほうだい
やがてみんなを 怖がらせ
自ら墓穴を 掘るだろう
それから数日すると、この兄のオウムの予言どおり黒ザルはいい気になって王子たちの前で暴れ回り、みんなを脅かしたのであった。王子たちが怖がれば怖がるほどなおいっそう得意になり、ライオンのようなうなり声を出して暴れ回ったのである。宮殿は大騒ぎになり、女や子供たちの悲鳴を耳にした王が駆けつけてきた。
あんな黒ザルなどすぐに追い払ってしまえ。顔も見たくない。
こうして、気まぐれな王の命令で黒ザルは王宮の門から外へほうり出されてしまったのである。
翌朝、兄のオウムは何事もなかったかのように静かな声で弟に朝のあいさつをした。弟もそれに答えた。その声を聞きつけて、王がオウムのかごに歩み寄ってきた。
いつも素直でおとなしいお前たちのことをすっかり忘れていた。
すまないことをした。
そう言って王は鉢に澄んだ水を入れ、えさを掌に載せて二羽のオウムの前にさし出した。それ以後、二羽のオウムは前にも増して大事にされるようになったという。