打ち過ぎた太鼓

ある時、バーラーナシーの都で大きな祭りが催された。遠い村から太鼓打ちの父と息子がやって来て、都の人々を楽しませた。たいそう見事な太鼓の音に、祭りに集まった大勢の人々はすっかり感心して多くの金銭を与えたのだった。

こうして祭りも終わり、太鼓打ちの父子はたくさんの金をもうけて帰路に就いた。ところが、こんもりとした森の入り口まで来た時、大きな立て札が目についた。

『この森は盗賊多し。注意せよ』

これは困った。どうしよう。

さんざん考えたあげく、父が言った。

息子よ、太鼓を打ちながら森を通ろうじゃないか

それがいい、お父さん。王さまの行列が通るときみたいに思いきりにぎやかに太鼓を打とう。
そうすれば賊も大勢の強い家来がいると思って、きっと出てこないだろう。

二人は太鼓を打ちながら歩いた。ところが、息子はだんだん調子づいていい気分になり、ドンドコ、ドンドコと休みなく打ち鳴らし続けた。

これ、息子よ、そんなに打ち続けてはだめよ。
王さまの太鼓は休み休み打つものだ。

父は注意したが息子は一向に気にかけず、ますます調子づいて打ち鳴らした。


はじめは王の行列だと思い込んで森の奥へ逃げていた盗賊たちも、だんだん怪しいと思い始めた。

王の行列ならば、あんなに休みなく打ち続けるはずがないぞ

そうだとも、おかしい。ひとつ様子を見にいこうではないか

そういうわけで、たちまち父子の太鼓は見破られ、二人は盗賊に取り囲まれてしまった。

せっかくかせいできた大金もあっという間に奪い取られ、父子は一文なしになってしまった。そこで、父は息子に向かってうたを唱えて忠告したのであった。

太鼓を打つのは いいけれど

過ぎてはいけない 度を超すな

太鼓をたたいて かせいだ金も

すべて失う たたき過ぎ

ジャータカ59

『仏教説話大系』第7巻 「打ち過ぎた太鼓」より
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