サルの庭番

昔、バーラーナシーの都には王の広い庭園があり、その中の林にはサルの群れが住んでいた。庭園には番人がいて、草花の手入れや、林に植えたばかりの苗に水をやったりしていた。

折しも、町には祭りの触れが出てにぎわっていた。太鼓の音が遠く庭園にまで聞こえてきた。番人は、祭りの時くらいなんとかして町に出て遊びたいと思うのだったが、苗に水をやらなければならない。
しかし、それをしていると祭りに行くことなどできそうもない。番人は、一日だけのことだから、なんとかそれを林に住んでいるサルたちにやらせようと考えた。

そこで番人は、水やりをするときには歌をうたったり笑ったりして、いかにも楽しそうに林の中を飛び回った。サルたちはそれを不思議そうに見ていたが、ついに我慢できなくなって番人に尋ねた。

番人さん、あなたはどうしてそんなに楽しそうにしているのですか

あっはっはっはっ。この水やりだがね、これはやってみなければ分からないよ。おもしろいのなんのって、苗木に水をやるのがこんなに愉快だなんてね

番人はいかにもおもしろうに笑った。

苗木に水をまくことがそんなに愉快なんですか

サルたちは首をかしげたが、あまり番人が楽しそうなので、自分たちもしてみたくなった。

番人さん、どうかわたしたちにもやらせてください

いやいや、そりゃだめさ。これがおれの楽しみなんだからね。

番人はそう言って、取り合おうとしなかった。するとサルたちは、ますますやりたくて仕方がなくなった。


いよいよ祭りの日が来た。番人は、水をやるために使う皮の袋と、木製のつぼを持って林に出かけた。すると、サルたちが途中で待ちかまえているのが見えた。

しめしめ

番人は思ったが、わざと知らん顔をして行き過ぎようとすると、サルの王が近づいてきた。

番人さん、どうかわたしたちに、その水やりをさせてください

いかん、いかん。これはおれの仕事だ。
こんなおもしろいことを人にやらせるわけにはいかん。

そこをなんとかお願いしますよ。あなたは毎日やれるじゃありませんか。せめて今日だけでもやらせてくださいよ。

サルの王は頼んだ。ほかのサルたちも、いっせいにうなずいた。番人は、サルたちを見回してからつまらなそうに答えた。

仕方がない。じゃあ今日だけやらせてやろう。おれは、どうせおもしろくもないだろうが、祭りにでも行くとするか。
ほかの者が水をやっているところなんか、悔しくて見ていられないからな。ただ、いいかい、覚えておくんだよ。
根に水がきちんと染み込むようにするんだ。だが、水は大切に使わなくてはいかん。頭を使えよ、頭を。

サルたちは喜んでうなずいた。番人は内心ほくほくしながら、祭りの笛の音に浮かれて飛び出していった。


サルたちは水をくんできて林に入ると、苗木を見つけては水をやった。しかし、きちんと根に水が染みているかどうかは見ただけでは分からないし、ただ水をやるだけでよいのかどうかも判断がつかなった。
しばらく考えていたサルの王が、はっと気づいて言った。

そうだ、水をやる前に苗木を抜いてみて、根の深さを確かめるんだ。そうして、根の深いものには水をたくさんやり、浅いのには水を少しやるようにすればいい。どうだ、頭を使えばこんなもんだ。

それを聞くと、ほかのサルたちも感心して林の中を飛び回り、一本一本全部苗木を抜いては根の深さを確かめた。そして根の深さに応じて、水をやった。

サルたちは水やりを終えた。番人が言うほどおもしろいとは思えなかったが、頭を使って仕事をしたことにたいへん満足していた。だが、何日かたつと、一度根を抜かれ、傷められた苗木は次々と枯れ始め、番人が慌てても、もうどうすることもできなかった。

ジャータカ46

『仏教説話大系』第5巻 「サルの庭番」より
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