生き返ったトラ

昔、バーラーナシーの都に、仙人が住んでいた。彼は千年も前に生きた人と話したり、千年も後の世の中について予言することができた。また、不思議な魔術も使うことができた。

この仙人はある長者の家に生まれた。幼い時から、神童という評判が都中の人たちに知れ渡っていた。成長しての後は、タッカシラーの都へ留学し、眠る時間も惜しんであらゆる学問を修めた。何年かの後、バーラーナシーの都へもどると、その高い学識を伝え聞いて、五百人もの若者たちがたちまち集まり、弟子となった。

彼は、門弟の一人一人にとって、それぞれの才能を伸ばしてくれるすばらしい教師であり、また自分自身の勉強も忘れなかったので、その評判はますます高まっていた。その大勢の門弟のうちに、サンジーバという青年がいた。彼は人一倍勉強熱心で努力家でもあったので、師はその将来を頼もしく思っていた。

とはいえ、サンジーバ自身は、自分の学才にうぬぼれの心を多少持っているところがあった。そういうサンジーバに対して、師はいつも、こんこんとそれを戒めていた。サンジーバが𠮟責を受けると、恐縮して反省を誓った。彼は素直であり、また道を求める熱意は火のように激しかったのである。

ある日のこと、師が言った。

少し早すぎるかもしれないが、死んだものを生き返らせる蘇生の法をお前に伝授しよう。だが、この法をむやみに人に見せびらかしたり、興味本位に試みたりしてはならないぞ。

戒めとともに、サンジーバに蘇生の法を授けた。しかし、師はこの法を説く解呪の法は、いまだその時期が早いとして伝授しなかった。


しばらくして、サンジーバと他の門弟たちが、森の奥深くを散策している時のことであった。道の傍らに、トラが寝そべっているのを見つけ、皆いっせいに驚きの声をあげた。だが、サンジーバが恐る恐る近寄ってみると、すでにトラは死んでいた。

このトラはもう死んでいるぞ

そう伝えたサンジーバの心に、ふと、うぬぼれの気持ちがわき上がり、自分だけに伝えられた蘇生の法を、みんなの前に見せびらかしたくてたまらなくなった。師の戒めをすっかり忘れて、大きな声で誇らしげに言った。

わたしが、今、みんなの目の前でこのトラを生き返られてみよう

門弟たちは、まさかという思いでサンジーバを見つめていたが、彼が真剣な顔つきで師から伝えられた呪文を唱え始めると、我先にと、そばに茂っている菩提樹によじのぼった。やがて、不気味なトラのうなり声が聞こえた。たちまちトラが生き返ったのだ。

木の上に逃げていた門弟たちは、声もなくこの有様をながめていた。その時突然、トラが跳ね起き、猛烈な勢いでサンジーバに襲いかかった。サンジーバは声を上げる間もなくかみつかれ、押し倒されてそのまま息絶えてしまったのであった。

そして、トラもまたサンジーバの返り血を浴び、ドサリと倒れて息絶えてしまったのであった。あまりの出来事に門弟たちは木の上でガタガタ震えていたが、やがて我先にと木から下り、森を走り抜け、師のもとへ駆けもどった。

そして師に、森の中で起きた信じ難い出来事の一部始終を口々に告げた。すると師は、門弟たちに向かって、おごそかにこう言って戒めたのであった。

サンジーバのよに、うぬぼれの心を起こし戒めを犯すものは、常にこのような災いを自ら受けるのである。

ジャータカ150

『仏教説話大系』第5巻 「生き返ったトラ」より
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