カッカールの花輪

すばらしい香り

ある時、バーラーナシーの都で国をあげての盛大な祭りが行われた。国中のあらゆる所から大勢の人々が集まってきて、それはたいへんなにぎわいであった。
天界からも四人の天子たちがこの祭りを見ようと都に降りてきた。彼らは、カッカールという天界の花で作った花輪を頭につけていた。都中にカッカールの花の香りがあふれた。集まってきた人々は、この花の香りを不思議に思って口々にうわさし合った。

なんとずばらしい香りだろう。いったいどこのだれが、こんなにいい香りのする花を身につけているのだろう。

これを耳にした天子たちは、

あの人たちはわたしたちのことに気づかないで探しているようだ

とささやき合って花の香りを漂わせながら王宮の庭園まで来ると、その不思議な力によって空中に止まっていた。

ほんとうにすばらしい香りだ

大勢の人々がこの香りに引きつけられて集まってきた。

この時、王が天子たちに気づいて大臣たちとともに迎え出た。

ああ、天子さま、ようこそおいでくださいました

王は天を仰いで言った。

この都に、どういうご用で降りてこられたのですか

わたしたちはこの盛大な祭りを見物にきたのです

天子たちはにこやかに答えた。

天子さま、そのすばらしい香りのする花輪は、なんという花なのでしょうか。わたしたちはただうっとりするばかりです。

王の問いに、天子のひとりが答えた。

これはカッカールという花です。天界にいつも咲いている花なのです。

王は思わず身を乗り出して頼み込んだ。

その花輪をぜひわたしたちにくださいませんか。天界にはもっともっと美しい花もあるのでしょうから。

すると四人の中でいちばん年長と思われる天子が王に近寄ってきて、静かな声で諭すように言うのであった。

せっかくですが、このカッカールという花はわたしたち天子のような者だけに似合うのです。人間界の卑しい愚かな人たちには似合わない花なのです。人間でもし似合うとすれば、それはたいそう高い徳を備えた人です。

そして、さらに続けてうたを唱えた。

盗みをせず うそつかず

栄誉を得ても 高ぶらず

そんな人のみ この花で

身を飾るのに ふさわしい


戒めのうた

これを聞いていたひとりの司祭は考えた。

ううむ、わたしにはこのような徳はひとつとして備わってはいない。しかし、あのうっとりとするような香りを手に入れれば、人はわたしを徳の高い人間と思うだろう。よし、なんとかあの花輪をもらってやろう。

そこで、彼は天子に近寄って申し出た。

自分で言うのはおかしいかもしれませんが、わたしにはそういう徳が備わっております。

すると天子はその言葉に従って、恭しく花輪を彼の頭にかぶせてやった。

あっさり花輪を手にいれることができたので、司祭はすっかりいい気分になって花の香りに酔いしれた。
続いて第二番目の天子がうたを唱えた。

偽りにより 富を得ず

どんな財宝 手にしても

決しておごらぬ 人ならば

この花こそが ふさわしい

第三番目の天子がうたった。

信心あつく 貪らず

他人のためを 思う人

こんな人のみ この花で

身を飾るのに ふさわしい

最後に四番目の天子がうたった。

陰ひなたなく 善良で

言葉と行為が たがわない

そんな人のみ この花で

身を飾るのに ふさわしい

天子たちがうたい終わると、例の司祭は進み出て言った。

わたしには、そういう徳はみんな備わっています。

平然とうそをつく司祭の言葉を疑う様子もなく、天子たちは花輪を全部司祭に与えて静かに天界へ帰っていったのであった。


うその報い

さて、天子たちが去ってしばらくすると、花輪に埋ずもれた司祭は激しい頭痛に襲われた。まるで刃物で頭を刺し通されたうえに鉄の輪で締めつけられるような痛みで、今にも頭が割れそうだった。彼はついにその激痛に耐えきれず、気を失って倒れた。

どうしました。しっかりしてください。

人々の声に彼は意識を取り戻し、その痛みに声をあげて泣きわめきながら、たまりかねて告白した。

わたしは自分に徳がありもしないのに徳があるとうそをついて、あの天子たちから花輪をもらいました。そのためか頭が痛くてたまらない。頼むからこの花輪をわたしの頭から外してください。ああ、痛い。助けてくれえ。

人々はなんとか彼の頭から花輪を離そうとしたが、花輪はまるで打ちつけられた鉄の板のようにぴったりとくっついて、どうしても離すことができなかった。仕方なく人々は彼を抱き上げて家へ連れ帰った。

こうして彼は、それから七日間も家で泣き暮らした。頭痛は治まるどころかますますひどくなるようであった。王も哀れに思い、大臣たちを呼び集めて相談した。

あの司祭は愚かなやつではあるが、そのままでは死んでしまうだろう。どうしたものだろう。なにか良い方法はないだろうか。

大臣のひとりが答えた。

王さま、もう一度祭りをなさいませ。そうすればきっとあの天子たちが再び姿を現しましょう。

なるほど、それはいい考えだ。早速国中に触れを出せ。

こうして、再びにぎやかに祭りが行われることになった。


天子たち、ふたたび

その日、天界から天子たちがまた降りてきて、例のうっとりするような花の香りが都を満たした。その香りに誘われて大勢の人々が各地から集まり、前にも増すにぎわいとなった。人々はあの愚かな司祭を連れてきて、王宮の前庭にあおむけに寝かせた。

司祭はすっかりやつれて、泣きながら訴えた。

ああ、この花輪を外してください。どうか私の命を助けてください。

この花はあなたのような人には似合わないのですよ。あなたはわたしたちをだまそうと思ったのでしょうが、だましたりうそをついたりすれば必ずその報いを受けるものなのです。

年長の天子は諭すように言って、大勢の人たちの前で彼の頭からカッカールの花輪を取り外してやった。こうして天子たちは、集まった人々に教えを説いて天界へ帰っていった。

ジャータカ326

『仏教説話大系』第6巻 「カッカールの花輪」
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!